東京高等裁判所 平成元年(ネ)2673号 判決
被相続人は相続人の遺留分を侵害しない範囲において自己の財産を処分する自由を有しており、その範囲で被相続人の意思を尊重する必要があるから、遺留分減殺請求の対象となる贈与又は遺贈が共同相続人の一人又は数人に対し行われている場合には、右贈与又は遺贈により遺留分を侵害される相続人は、贈与又は遺贈の額が自己の遺留分額の範囲内にとどまる受贈者又は受遺者に対しては遺留分減殺請求できないと解するのが相当である。もし、かかる受贈者又は受遺者に対しても遺留分減殺請求を認めるとすれば、その者自身遺留分侵害を受け不利となるばかりか、法律関係が複雑になって妥当でない。
これを本件についてみると、遺留分算定における受贈財産の評価の基準時は、相続開始時と解するのが相当であり、控訴人貴世が伊知から合資会社弘湖社の出資持分金七〇万円及び現金五〇万円並びに定期預金債権金五〇〇万円を遺贈されたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。ところで、成立に争いのない甲一第一七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲一第二一号証、原審における鑑定の結果に弁論の全趣旨を合わせると、本件弘湖社所有不動産のうちの建物は、埼玉商事有限会社が、昭和四六年一一月、合資会社弘湖社から、店舗、事務所、旅館及び社宅とする目的で、賃貸期間を二〇年間と定めて賃貸していること、右建物が賃貸されていることによる減価をした本件弘湖社所有不動産の相続開始時(昭和五一年一〇月二日)の価額は三億九〇〇〇万円であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、相続開始時の同会社の右不動産以外の資産・負債額、簿価等を明らかにする証拠はないから、右金額をもって精算所得とみて、右精算所得に対する当時の法人税等の税率五三パーセントを控除して合資会社弘湖社の出資全体の価額を算定すると、一億八三三〇万円となる。したがって、相続開始時における本件出資持分の価額は四七五二万二二二二円を超えることはないと認めるのが相当であり、そうすると、控訴人貴世に遺贈された価額の合計は金五三〇二万二二二二円となる。これに対し、前記当事者間に争いのない事実及び右鑑定の結果によれば、伊知の遺産の価額は、控訴人貴世に対する右遺贈の額五三〇二万二二二二円に相続開始時(昭和五一年一〇月二日)における本件各土地の価額の合計金一三億〇四六三万円及び控訴人啓公に遺贈された現金・預金の合計金二一七七万一一六五円を加算した総額金一三億七九四二万三三八七円であることが認められ、控訴人貴世の遺留分はその八分の一である金一億七二四二万七九二三円である。
そうすると、控訴人貴世に遺贈された額はその遺留分の範囲内にとどまり、被控訴人乙竹頂公、同鈴木康元、同栗原智晴は控訴人貴世に対しては遺留分減殺請求できないから、同被控訴人らの控訴人貴世に対する請求はいずれも理由がない。
(時岡 大谷 小野)